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昭和思い出話 その2「ダイアジノンと汲み取り式便所」

エッセイ風

これはワタクシ、昭和後期生まれの思い出話。
昭和の生活史として参考になれば幸いである。

今回はトイレ…というか便所ネタなのでかなり尾籠な話である。
心して読んでほしい。

実家がトイレを水洗にしたのは30年以上前。

30年というとすごい昔のことのようだが、1990年代であり、私が20歳そこそこの頃までは汲み取り式便所だったのだ(?…すごい昔か…)。

現在、汲み取り式がどの程度残っているのかわからないが、つい最近もバキュームカーを見かけたので絶滅したわけではあるまい。

汲み取り式便所。
言わずと知れた「ボットン便所」。

いや、今どきは言わないとわからないかもしれないな。
ひり出したモノが汚物を溜めるところに直接「ボットン」と落ちるから「ボットン便所」なのだ。

定期的にバキュームカーが来て、便槽の中身を回収していく。
(バキュームカーを電話で依頼していたのか、言わずとも来たのかはちょっとわからない)

ちなみに回収まもない時期、つまり中身が空のときに便をすると「ボットン」ではなく「ピッターン!」という音がしたのを覚えている。

汲み取り式便所は、便槽と直接つながっている。
だからトイレはいつも臭い

もちろん便器にはフタをしているが、臭いが上がってきてしまうのは如何ともしがたい。

だから私はトイレでは口呼吸していた。臭いからだ。

「トイレで口呼吸」は身に付いた習慣として、水洗トイレでも自然に口呼吸になった。
今ではさすがに鼻呼吸していると思うが、意識していないので、もしかしたら口呼吸かもしれない。

私の父は若い頃、ヘビースモーカー且つ長便所だったため、朝のトイレは最悪だった。
トイレに新聞を持ち込んで煙草を吸いつつ用を足すのである。

私だって早くトイレに行って用を済ませて学校に行かねばならないのに、父がトイレを占領している。
催促してやっと空くが、父が出た直後は…はっきり言えば、便と煙草の臭いで充満しているのだ。

換気扇や小窓はあったが、排出はとても追いつかない。
でも早くしなければ学校に遅刻してしまう。

私は息を止めて入り、息が切れそうになったら服の袖を噛んだうえで口呼吸して用を済ませていた。
(夏場は半袖なので袖を噛むのも難しかった)
それでも、父が入った直後のトイレは本当に地獄のような臭さだった。

私の夫もそうだが、なぜトイレでものを読むのだろう?
そんなに排便に時間がかかるのか?
長時間尻丸出しで寒くならないのだろうか?
どうにも理解できない。

だからというか、私は学校のトイレ掃除が好きだった。
自宅のトイレと違って、とてもキレイに思えたからだ。

そう、トイレ掃除といえば、汲み取り式便所の掃除は水洗トイレにはない工程があるのをご存じだろうか。

まず便器の内側をトイレブラシでこすり、水で洗う。
洗うといっても水洗じゃないから、バケツの水をかけて流す。
洗剤は確か、サンポールだったと記憶する。
外側や床は雑巾で拭く。

今さらだが、便器は和式である。
ウチは段差のない和式便器と、男子用の小便器のふたつがあった。
(段差のある和式便器だと、便器の位置が多少高くなるため、小便器が必要なくなる)

だから便所の最初の扉を開けると小便器があり、小便器横の扉を開けると和式便器がある、という構造だったように思う。

話がそれた。

ひと通り便器をきれいにしたら、最後の仕上げがある。

それは「ダイアジノンを薄めた水を和式便所の中にぶちまける」である。

ダイアジノンとは?
私もこれを書くために調べて分かったのだが、殺虫剤(防虫剤?)のことであった。

前述した通り、汲み取り式便所は便槽と直接つながっているため、汚物に虫が湧いた場合、外に上がってきてしまう。

それを防止するための殺虫剤をまく、というわけだ。
まさに汲み取り式ならではの工程である。

茶色のびんに入ったダイアジノンの液体(正式名称は覚えていない)をキャップに1、2杯、バケツに張った水に入れて薄める。

そのまき方の、母のアドバイスが今でも忘れられない。

「中の“山”を崩すようにまくのよ」

山……

当たり前だが、自分たちが出したモノのことである。
落ちる位置はだいたい同じだから、山になるわけだ。
そしてこれも当たり前だが、的確に山を崩すには、しっかり中を見ながらぶちまけなければならない。

バケツに1杯か2杯まいたら、トイレ掃除は終わり。
終わればそれなりに、気分はすっきりした。

が、汚物の山を直視するのは、やはり気分がいいものではない。
水洗トイレが普及するのも当たり前だと思う。

私が子供の頃は、水洗トイレに改装しませんか?というチラシがよく入っていた。
汲み取り式の欠点として「くさい!」「中が見える!」と、イラスト入りで載っていたのを覚えている。

さらに、子供の頃は「便器の中に落ちる妄想」があった。
実際昔は、何かしらが便器の中に落ちるという事故はちょくちょくあっただろう。

便所の灯りは電球でワット数も低いものが選ばれた。
今思えば、便器の中がよく見えないようにするための配慮だったのかもしれない。
自然、便所の中は薄暗く陰気な雰囲気が漂った。

ウチの場合、便所の床に明るい柄のフロアシートを敷き詰めるまでは、床は板張りだったため全体的に茶色く暗かった。

ボットン便所は何気にこわい場所だったのだ。

すっかり水洗トイレが普及した現在、こんな経験談は少なくなっていると思う。
私にしても、懐かしく臭い思い出である。

ついでなので。

バキュームカーが回収に来た直後は、家の中が猛烈に臭くなったっけ。
便槽に繋がる外の蓋を開けるからか、便槽の中を強力に回収していくからか、理由はわからない。

しかしその嫌な臭いを消す方法があった。

それは、魚焼きの網に醤油を数滴たらして焼く、というものである。

焦げた醬油の香ばしい匂いは、一瞬で嫌な臭いを消してくれた。

これは現在でも使えるライフハックだと思う。
ぜひやってみてほしい。

※この記事はブログサービスnoteに投稿した記事の再録です

トイレは外にあって、道には肥溜めがあって…そんな時代背景の漫画がこちら↓

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