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【雑記】チャルメラの音が聞こえる

エッセイ風

チャルメラの音が聞こえると気が付いたのは、わりと最近のことだ。

10月にここへ引っ越してきた頃にはそんな覚えはなかったから、年が明けてからのことだと思う。

すぐ近くの通りから、チャルメラの音が聞こえる。

そっと窓からのぞいてみると、それらしい車のライトが見えた。

ふいに音が途切れる。
お客さんが来たようだ。

しばらくしたのち、再び音を鳴らしながら車は去っていった。

そのことを夫に話したら、

「いつ頃だった?」

と、聞かれた。

しかし私は答えられなかった。
関心がないと「いつ頃来たか」なんてことにまで意識が回らないものだ。
わかっているのは、

・平日ではないはず
・そんなにたびたびは来ていない。たぶん週1
・夕飯は食べ終えている時間帯

ということぐらい。

なので今度は意識してチャルメラが来るのを待つことにした。

その結果、チャルメラは土曜日の21時前に通りがかるということが判明した。

ラーメン大好き夫が、

「次の土曜日は夕飯は軽く食べるだけにしてチャルメラを食おう」

と、言った。

だがその土曜日、ふたりともすっかり忘れて、思い切り夕飯を食べてしまった。

21時前、チャルメラはやってきた。

その音が遠ざかっていくのを、私は無念の思いで聞いていた…

アラフィフの歳になっても、私はチャルメラを食べたことがない。

考えてみればそれも当然で、平均的な時間に夕飯を食べ終わっていれば、そのあとにラーメンを食べる腹具合ではない。

子供の頃にも、家の近くをチャルメラが通っていたことがあった。

しかし子供にはチャルメラなど、もっと遠い存在だった。

もちろん夕飯は食べ終えているし、子供が夜チャルメラを買いにいこうなどすれば、こっぴどく叱られたであろう。

だから今回「チャルメラを食べよう!」と思ったものの、どう購入するのか正直よくわかっていない。

屋台だから、立ち食いなのだろうか?

そのわりに、音が止まっている時間は短かった。

お客がどんぶりを持って買いにいき、よそってもらって持ち帰るのだろうか?

どんぶりを持って待機し、駆けつける自分を想像する。

ちょいと恥ずかしい。

汁がこぼれないように、ラップも持っていった方がいいだろうか…。

 

よく考えると、チャルメラもなかなか博打な商売だ。

あの特徴的な音だけで、客を呼び寄せるのだ。

親でもネットでも、とにかく人づてに

「あれはラーメンを売りに来た音だ」

と教えてもらうか、好奇心を持って自らの足で確かめにいくしか知りようがない存在である。

何の宣伝もないから、それを知らない者はターゲットにはなりえない。

私はたまたまあの音が何かを知っていて、あの音に意識が向き、買いにいこうと思ったが、いつ何時に来るのかは、自分から積極的に情報を取りにいかなければならなかった。

そして時間帯。

前述の通り、平均的な時間に夕飯を取っている者には相手にされない。いや、しない。

あの音の正体を知っている者だけを相手にする、密やかな夜の商売。

まぼろしのような存在である。

まぼろしが消えてしまわないよう祈りつつ、来週こそは、あの音に近づいて全貌を確かめたい。

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